没頭して楽しんで生きるには/【読書録「フロー体験入門」】

読書録

だれもが幸福に生きたいと願う。だけれどその「幸福」とは一体なんなのかは人によってさまざまだ。幸福とは考えるのに抽象度が高く、人や国によっても認識の違いは大きい。

幸福とは質感が違うけれど、「時間を忘れて何かに没頭すること」は充実した人生を体感できる経験だ。子どもの頃なら例えば、お絵かきやかくれんぼといったことに夢中になり、学生の頃であれば部活や研究といったことに熱中するかもしれない。では、大人になると子どもの時ののように何かに没頭する経験はできないものなのだろうか。

コーチングを学ぶ中で、この「フロー体験入門 楽しみと創造の心理学」(世界思想社)が参考図書としてあげられており、手に取った。この著書では、何かに没頭して楽しんでいる状態を「フロー」と呼ぶ。芸術家、詩人、登山家、チェスのプロ、溶接工、歌手、外科医など、古今東西の例をあげて「フロー状態」の充実感や、その状態の生み出し方について説いている。

おもしろく感じたのは、フロー状態になるために特に必要な3条件について述べているところだ。

①目標が明確であること
②スキル(技能)とチャレンジ(挑戦)のバランスが取れていること
③迅速なフィードバックがあること

1つ目は、目標を定める重要性を説く。登山者の例が印象的だ。

「登山者が目標として頂上に到達することを決めるのは到達したいという深い願望があるわけではなく、目標が、登るという体験を可能にしてくれるからである。もし頂上がなければ、登山は無気力なぶらぶら歩きになる」

p.196

頂上というめざすところがあるからこそ、登山者は登ろうと思う。登山を長く趣味としてきた自分の体験を考えてみても、確かにこれは当てはまると感じる。ロングトレッキングなどは必ずしも頂上でなくてもいいけれど、ゴールがあるからこそ、苦しいときにでももう少しだけやってみようと思える。目標とは自分を奮い立たせるものなのだろうと思う。

2番目の「スキルとチャレンジのバランスが取れている」とは、どのような状態なのだろう。著者は次の図表を示す。

「フロー体験入門」p43より筆者作成

自分のスキルが高く、かつチャレンジも高い場合に「フロー」に近づけるのだという。これで思い浮かぶのは、日本で活躍したプロ野球選手がなぜ米国のメジャーリーグに挑戦するのかということだ。金銭的な面もあるだろうが、日本で活躍できれば縦軸のチャレンジ度合いは低くなるだろう。そうすると「コントロール」の領域に入る。しかし、それでは飽き足らず、大リーグというチャレンジの大きな舞台に「フロー状態」を求めにいっているのではないだろうか。

3番目の「迅速なフィードバックがあること」とは、自分がやっていることに対して、タイムリーでうまく一定rかどうか情報を得られることなのだという。例えば、ロッククライマーは、落下せずに岩に手足を引っ掛けている状態であれば、その登攀はうまく続いているということがわかる。外科医であれば手術中に、患者の容体や患部の状態などの情報をもとに、手術がうまくいっているかどうかわかる。「今この瞬間がわかる」ということが、フロー状態の大切な要素のようだ。

もうひとつ没頭して楽しむ「フローの人生」をめざす上で、印象深い考えがある。「自己目的的パーソナリティー」という考えだ。自己目的的とは、Autotelic(自己目的的/内発的)という、Auto(自己)とtelos(目的)という二つのギリシャ語からできている。

例えば、マラソンを考えてみるといいかもしれない。マラソン大会で優勝するために毎日トレーニングするのではなく、走ること自体を楽しむためにマラソンをしているといった意味合いだろう。外から与えられた目的を達成するためにというよりは、それ自体のためにものごとに取り組むことだろう。「好きなものこそ上手なれ」にニュアンスは近そうだ。

この著書では「自分を知ること」や「自分のビジョンをもつこと」の大切さも説いている。なぜ自分を知ることが大切なのだろう。著作を通じて思うことは、自分を知り、ビジョン(目標)を定めることで、人生をフロー状態に近づけることができるためだろう。自分に合った力の向け先がわかることで、人はなにかに没頭して人生を楽しみながら歩んでいけるのだろうと思う。

私自身、いま個人の使命やビジョンを言語化する仕事をしている。使命を見出すことによって、人は迷わなくなり、言動に一本筋が通る。自分の今のコーチング業は「フローを生み出す仕事」と言えるのかもしれない。

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