「いのちの芽」という詩集を読んでいました。ハンセン病患者たちがうたった詩を、詩人の大江満雄さん(1906~91)が編集した本です。ハンセン病はかつて「癩病」と呼ばれ不治の病とされていました。死の恐怖と隣り合わせの人たちが何を思い、何を言葉にしたのか知りたくて読みました。
作品の中には絶望に打ちひしがれるものもあれば、希望を感じさせるものもあり、患者の方たちの声にならない声が聞こえてくるようでした。人の心深くに届く言葉というのは、生死を体感することから生まれてくるものなのかもしれません。心に響く詩集です。
今の私に響いたのは「緑の地上」という詩です。
友よ冬は去ったのだ
太陽が燦々 緑の畑に匂い
黒い大地に輝いている
世界じゅうの誰れもが
この光りを吸っているのだ
おとなも子供も
青空には風が暖かくふくらんで
白雲が散歩する
友よ 手をつないで
緑の地上を歩いてゆこうよ
厳しい冬が去り、希望の季節を感じさせる詩です。「青空に風が暖かく膨らんで」「白雲が散歩する」という表現は、なんと詩情にあふれているのでしょうか。心軽やかな情景が浮かびます。
病棟生活の中でも、こうした明るい言葉を紡ぐことができるというのは、人間存在の希望を表しているのではないでしょうか。