歌手YUKIに見た「心動かす仕事」の3条件

私見

7月17日、滋賀県のびわ湖ホールで開かれたYUKIのライブコンサートに行きました。色鮮やかな照明が乱舞する中、歌い、踊り、駆け回るYUKIのステージは、2時間の異世界でした。

YUKIの曲は、社会人になってから10年以上聞き続けてきました。ソロデビューして今年で20年。その記念ライブで見たものは、これまでほとんどライブに行ったことがなかった私にとって、大きなインパクトがありました。

私はいま京都芸術大学の大学院生として研究する中で「表現」について考える機会が増えています。今年50歳になっても第一線の歌手であり表現者であるYUKIのステージから多くの考える材料を得ました。

「心動かす仕事」とはどのようなものか。YUKIのライブから自分なりに考えたことを以下に書いてみたいと思います。

①「うまくやらなきゃ」ではなく「一緒に楽しむ」

YUKIがライブで歌う姿を見て最も印象に刻まれたのは、彼女が決して「うまく歌おう」と思って歌っているように見えなかったことです。YUKIはただ、自分の思うままに歌い、表現しているだけにしか見えませんでした。

伝わってきたのはただ「歌が大好き」ということ、その一点に尽きるように思いました。その一点だけで、ライブ会場に詰めかけた2000人が飛び跳ね、手拍子をし、叫ぶ様子に、私はアーティストのすごみを思いました。

もちろん一流のプロとして、研鑽を積み続けていることが土台にあるのだと思います。21歳でデビューして50歳になるまで第一線で歌い続けるための影の努力は、並はずれたものではないでしょう。しかし、実際のライブでは、ただ「観客と一緒に思い切り楽しむ」姿にしか見えませんでした。

私たちの普段の仕事ではどうでしょうか。頭のどこかにあるのは「うまくやらなきゃ」といったことがあるように思います。「失敗しないように」とか「人から笑われないように」といった意識がちらつきます。もちろん、そうした意識が大切な仕事もあるでしょう。

しかし、本当に人の心を動かす仕事はそうした「意識を枠内に押し止めさせる」ものから生まれるのではなく、自らが楽しみ、目の前の人と一緒に楽しむというところから生まれるように思います。

このことは、私が仕事としているコーチングでも同じことが言えます。トップクラスのコーチは、クライアントの対話を、本当に楽しんでいるように見えます。コーチとクライアントが対話のダンスを楽しんでいるだけように見えるものもあります。そうしたコーチングの時ほど、クライアントが「すばらしい気づきを得た」といった感想を残すことが多いのは、ふしぎなことだと思います。

「ともに楽しむ」ことは、人の心を動かす仕事のためには欠かせない条件なのではないでしょうか。

②「やらされている」のでなく「自ら選んでいる」

2つ目は、仕事への意識です。自分の仕事について「自ら選んだもの」という意識があるかどうかは、どんな仕事をするにしても非常に大きなものではないかと思います。

ライブ中、曲の合間に何度かトークの時間がありました。ソロデビューすることを決めた時のことについて、YUKIは次のような話をしました。

「JUDY AND MARYとしての活動を終えて、そこから2002年に一人でやってみようと決めました。ひとりの歌手として生きていくことを選びました」

何気ない一言のように聞こえましたが、私には「選んだ」という言葉にアクセントを感じました。他のトークの場面でも「自分にできることは、歌うことだけでした」とこぼしていました。

自分の仕事は、自らが選んだもの。彼女からは表面的には自然体ではありながらも、強烈な自負心を感じました。

「自分の仕事は、自分が選んだもの」ということは、当たり前のことのようにも思いますが、どれだけの働く大人がこのことに心の底から納得しているでしょうか。例えば会社員の場合ですと、辞令一つで仕事内容が変わります。「この仕事は自分のものだ」という意識をもつのは、場合によっては難しいことかもしれません。

しかし、人が本当に感動する仕事とは、その人にしかできない仕事なのではないかと思います。その人ならではのものが現れている営みに、人は心動かされるのではないでしょうか。それは決して「やらされている」仕事ではなく、「自らが選んだ」という自負に裏打ちされている仕事から生み出されるように思います。

③「過去にあぐら」ではなく「変わり続けている」

もうひとつYUKIのライブで感じたことは、彼女は決して過去にあぐらをかいていないことです。常に変化し続けていることが、ライブ会場で流されたこの20年間の映像や画像からまざまざと伝わってきました。

なぜ変わり続けられるのか。私なりに考えたことは「自分にとって変えてはならないもの」を知っているからではないかということです。

YUKIは6月から放映されているサッポロビールの「大人エレベーター」のCMで妻夫木聡さんからの「YUKIさんにとって歌うとはどんなことですか」という問いかけに対し「詩をかいて歌うことが、自分にとっての大切な自由」と語っています。CMの演出も入っているかもしれませんが、メイキング動画や過去の発言を見ても同じ趣旨のことを言っており、これが彼女の表現活動における「変わらない本質」なのだと思います。

「詩をかいて歌うこと」これが彼女の普遍の表現活動であり、だからこそ、その他のことは変化を恐れることなく大胆に変えていけるのでしょう。

私には彼女が「歌のうまい歌手」というよりむしろ「挑戦する表現者」という言い方の方がしっくりくるように思いました。ライブ中のトークの中で、YUKIは好きなアーティストとして、ピカソをあげていました。ピカソ91歳の生涯のうち最晩年まで多作だったエピソードを熱く語り「私もそんなふうに歌をかきつづけていたい」と話していました。ピカソは時代ごとに大きく作風を変え続けた画家でもあります。YUKIの変化を恐れない作風は、ピカソの画風にも重なるように感じました。

YUKIの曲から生まれたフルエールのロゴ

YUKIのライブにどうしても行きたかった理由があります。それは、昨春立ち上げたコーチングカンパニー・フルエールのロゴは、YUKIの曲から生まれたからです。

フルエールは私のコーチ観、めいっぱい(フル)応援する(エール)人からつけました。また心「ふるえる」ともかけています。ロゴを作ろうと考えた時、真っ先に思い浮かんだのは旗のイメージでした。高校時代に活動していた体育会の応援団の応援旗がモチーフです。

デザイナーと打ち合わせを重ねながら、繰り返し聴いていたのがYUKIの曲「フラッグを立てろ」でした。風に旗がなびくような旋律から、大小のインスピレーションを得ました。あわせて、この曲の歌詞に出てくるフレーズも独立したての私の心をかきたてました。

「知りたいの、知りたい世界を」
「自由のフラッグを立てるんだ」
「咲かせるのは自由さ。戦うのは自分よ」

クライアントとともに、これまで知らなかった世界を見にいきたい。誰もが心の奥にきっとある自由へのフラッグを見つけにいこう。困難にぶつかる時もあるけれど、最後に頼れるのは自分。大きな権力に頼ることなく、自らを頼みにして一緒に進んでいこう。

こうした思いを乗せてデザインしました。フルエールの原点でもある「フラッグを立てろ」がライブ終盤で流れた時、私は最後列の席でぴょんぴょん飛び跳ね、手を叩きながら、まるでYUKIが私のために歌ってくれているような錯覚を覚えました。

誰もが本当はアーティスト

私は今、コーチとして仕事をしています。コーチングを学び始めたばかりの時、私は直感的に「コーチとはアーティストでもある」と思いました。なぜかといえば、コーチングの本質は「人の心をふるわせる」ことにあると思ったからです。

私たちコーチは、YUKIのようなアーティストのように何千人もの人を心をいっぺんにふるわせることはできません。コーチが対話によって向き合えるのは、目の前のたったひとりです。しかし、数に違いはあれ、人の心をふるわせることは同じです。

私は思います。人は、一人ひとりが皆アーティストであるということです。私が拠点とする芸大には80歳を超えて入学する方もいます。「自らを表現したい」というのは、人間の根源的な欲求であると気付かされます。

私は、コーチとは人の心をふるわせることで、皆がアーティストであるということを思い起こさせる仕事なのではないかと思っています。実際に、私のクライアントの方の中には、コーチングを通じて、大なり小なり自己表現を始める方が多く見受けられます

精神科医の泉谷閑示さんは、精神的な病を抱えた人が回復するときに「創造的遊戯」を始める例が多く見られると述べています。

クライアントもセラピーが進んで変化していくにしたがって、たいてい、何らかの創造を行うようになります。絵を描くようになる人もいれば、料理に深く関わっていくようになる人もいる。(中略)日常生活が新鮮な発見に満ちたものになって、文章や詩にそれを表したくなったり、新しい仕事をクリエイトする人も出てくる。いずれにしても「創造的遊戯」をするような人生に変わります。

泉谷閑示「『普通がいい』という病」

50歳になりいっそう輝くYUKIのライブを見て、私もまた自ら選んだコーチという仕事を愛し、仲間とともに楽しんでいく人生をクリエイトし続けたいという思いになりました。このライブを生み出してくださったすべての方に感謝を捧げます。

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