皆さんはふだん、ご自身のミッションについて考えるときはありますか。目の前のやるべきことに追われ、大それたミッションなど考える余裕はないという方も多いのではないでしょうか。
私はミッションをテーマにした経営者などリーダー向けのコーチングプログラムを制作しています。まもなく立ち上げる予定です。
ミッションについて専門の方や書籍から学ぶ中で、ミッションは人や会社を生かすものだと感じています。
目次
ミッションは「あり方」を定めるもの
なぜミッションが大切なのでしょうか。ミッションは「使命」や「目的」「存在意義」などと訳されます。人生のミッションといえば、その人ご自身の生きる目的と言えるでしょうし、会社のミッションといえば「その会社はなぜその仕事をしているのか」という質問に対する答えと言えます。
ミッションの反対の意味合いを持つのがマニュアルです。マニュアルは仕事のやり方を定めたものです。それに従うことで誰でも同じ成果を出せるようにしたもので、業務を進める上で欠かせないものです。
しかし、マニュアルには一般的に「なぜその仕事をするのか」という仕事の意味については書かれていません。家電製品を買った時についていくるマニュアル(取扱説明書)に、この家電はそもそもなぜあるのか、といったことが書かれていないのと同じです。マニュアルが仕事の「やり方」を説明するものなのに対し、ミッションは仕事の「あり方」を定めているのです。
ミッションは「心の羅針盤」
ミッションを軸にすることで、どのような良いことがあるのでしょうか。ミッションは行動の基準になります。そのため、選ぶ時の迷いが減ります。人は一日に細かいものを含めれば1万回ほど選択していると言われます。一つ一つの選択にいちいち迷っていれば、それだけでエネルギーを消耗してしまいます。ミッションを定めることで、大切なことにエネルギーを集中できるのです。
企業活動でもミッションが明確な企業であれば、従業員は働きやすくなりいます。ミッションに集中することで、仕事の質が上がり、顧客の期待を超えたサービスを届けることができます。ミッションとは「心の羅針盤」と表現する専門家もいます。
スタバが売っているもの
みなさんの周りでミッションを感じる会社はどのようなものが思い当たりますか。また、ご自身が所属される会社が、どのようなミッションを掲げているのか改めて調べてみてもいいですね。
ミッションを大事にしている企業の例としてスターバックスがあげられます。私も都内で記者をしていたとき、原稿を書くためによく使っていました。パソコンの電源が使えるため、長時間いても充電切れの心配がないからです。
スタバは「人々の心を豊かで活力あるものにする」をミッションに掲げています。スタバが本当に売っているものはコーヒーではなく、心の豊かさや活力なのです。
スターバックスのCEOを務められた岩田松雄さんは著書「ミッション」で次のように語っています。
「人々の心を豊かで活力のあるものにするためにコーヒーを売っている。つまり、コーヒーが手段で、人々の心の豊かさ、活力が目的」
もしかするとスタバが売るものはコーヒーでなくてもよかったのかもしれません。ほかの飲み物や食べ物でも、心の豊かさや活力は届けられるからです。
宇都宮の紅茶店が売っているもの
私は栃木県の支局で3年間記者をしていました。宇都宮といえば「ギョーザ」を思い浮かべる人がほとんどだと思いますが、それだけではありません。中心部の商店街に一杯の紅茶を提供するワイズティーという店がありました。濃い茶色に統一された机や棚に、真っ白な壁が映える英国風の洗練された雰囲気の店内です。
メニューには季節の茶葉や、地域産品を活かしたものが並びます。顧客の注文に、社長の根本泰昌さんがいっぱいずつ淹れてくれます。根本さんに何度も取材でお話を聞く中で、一つのミッションを大切にしていることを感じました。それは「宇都宮の人が地元に誇りをもてる店にしたい」ということでした。
宇都宮にはギョーザだけでなく、全国トップレベルの洗練された紅茶の店がある。そうした店にすることで、地域を元気付けたいという思いを持っていらっしゃいました。ワイズティーが売っていのは紅茶ではなく「地元への誇り」だったのです。宇都宮はワイズティーの存在もあり、国の家計調査で紅茶の消費量が全国トップレベルにまでなっています。
ミッションは人を生かすもの
企業でも組織でも、人がイキイキとしている場には、必ず共感を呼ぶミッションがあります。ミッションは人を生かすものと言えるかもしれません。私が取材した中でも、社員がはつらつとしている企業に共通するのは、明確なミッションがあることでした。社員もミッションがあれば働きやすいのだと思います。目的がはっきりしているためです。
このことは人も同じだと思います。人生にミッションをもっている人は活気があります。表立って元気いっぱいというわけではないかもしれませんが、自然体の柔らかさがあり、かつ揺るがない強さも感じます。ミッションとは見栄えのするカッコいいブランドの服なのではなく、飾らない一枚のTシャツのようなイメージなのかもしれません。
ミッションで、うつ状態を抜け出す
自分自身も長年、ミッションに迷い続けてきた人間でした。新聞記者になったものの、本当は自分は何をしていきたいのかわかないことに悩んでいました。自分の仕事について意気揚々と語る取材先に会うたびに、心が鼓舞されると同時に、自分はそんなふうに語れるものがないと、落ち込んだ気分にもなりました。
34歳の時、私はほぼ1年間うつ状態でした。やりたいことがまったくわからなくなったのです。訳もわからず「過去に戻りたい」という衝動で、高校生の時にしていた丸坊主にするほど、自分自身を見失いました。落ちるところまで落ちました。
自分をイチから見つめ直そうと、たまたま見つけたプログラムをわらをもすがる思いで受けました。過去を洗いざらい掘り起こし、私が見出したキーワードは「自然体」でした。
私の考える「自然体」というのは、心と頭が一致している状態です。自分もそうした状態で生きていきたいですし、他の人にもぜひそうあって欲しい。自然体を届けていくことが、私のミッションなのだと思いました。届ける対象は個人でも、企業でも同じです。記者時代に出会った魅力的な経営者の方は、自分の内側からの思いで生きていました。「自然体」という言葉で言い表せるでしょう。自分のミッションが定まってから、長年悩まされてきた頭の中の不協和音は姿を消し、迷いも断然減り、そして12年勤めた会社を応援されながら辞めることができ、今春独立することができました。
人と企業のミッション作り
私のプログラムのコンセプトは「ミッションで選ばれる人や企業になる」です。ミッションやビジョンなど理念のことを「クレド」とも呼びます。理念を大切にする経営者は「クレドカード」を社員とともに作り、日々ミッションに基づいた仕事を意識しています。共感を生むクレドを作ることで、社員の士気が上がったり、顧客や取引先からの理解が広がったりして、業績をあげている例も数多くあります。
記者時代にお会いした多くの方や、自分の挫折経験を注ぎ込んでこのプログラムを立ち上げます。明日から3日間、志を同じくする仲間とともに合宿形式で学んできます。未来のお客様を思い、めいっぱい集中してきます。