大分県の杵築市を訪ねました。江戸時代に整備された街並みが、300年にもわたってほとんど変わらない姿で見ることのできる城下町です。
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江戸の町並みがそのままに
石畳の急坂を登ると、黄土色の土壁が連なる光景が飛び込んできました。武家屋敷の町です。土壁は風雨にさらされ、ところどころはげかけていますが、それもかえって江戸から続く町の雰囲気を引き立てているように感じさせます。
大原邸という当時の上級武士の屋敷に入ると、茅葺き屋根の堂々たる居宅が姿を見せます。広々とした回遊式庭園を含め、敷地面積は650坪。小鳥のさえずりが響く屋敷内では、目の通った畳が敷き詰められ、武家の凛とした空気が流れています。かまどのある飯場では柱が煙で燻されて黒ずんでおり、当時の生活の息づかいが聞こえてくるようでした。
コロナ前は年100万人が訪問
杵築はコロナの前の2017年には年間102万人が訪れる大分県屈指の観光地でした。そのうち約10万人が外国人旅行客だったと言います。色とりどりの着物を来ながら町を歩く国内外の観光客で賑わっていました。
私は両親が大分県出身で、大分には幼い頃から何度も行っています。しかし杵築を訪ねるのは今回が初めてでした。両親の実家から車で1時間ほどの場所に、こうした町並みがあるとは知らず、2日間かけて城下町の雰囲気を味わい尽くしました。
観光客は20年前までほぼいなかった
街作りの経営者の方やガイドの方からお話をお聞きする中で、印象に残ったことがあります。それは、杵築はつい20年前までは、観光客でにぎわう場所ではなかったということです。歴史好きの方がときどき訪ねる程度で、着物姿の若い女性が歩くようになったのはこの10年くらいのことだそうです。
訪ねた人がSNSなどで杵築の町並みを発信するようになり、少しずつ認知が広がっていきました。国から2017年11月に伝統的建築物群保存地区として選ばれたことも追い風となり、年100万人の観光客を呼ぶようになりました。
外部の人に価値が見出された
いまでこそ「杵築は九州の小京都」としてアピールしていますが、杵築の人にとって石畳の坂道や武家屋敷は普段から見慣れたもの。価値があるものとは思ってもみなかったのです。それは、東京の中心部で日々働く人が東京タワーや皇居の石垣にいちいち感動しないように「いつもの風景」に過ぎませんでした。
この町並みに心動かされた訪問客がSNSで発信することで、認知が徐々に広がりました。杵築の価値は、外部の人によって見出されたものだったのです。
価値は他の人が気づくもの
何に価値があるのか。何が魅力に映るのか。それは、普段それを見慣れている人にとっては気づきづらいものなのかもしれません。なぜならそれが「当たり前」だからです。たとえば日本は「治安のいい国」と言われますが、ふだん日本に暮らす私たちはこのことを特別意識していないと思います。「治安の良さ」を感じるのは、外国から帰国した時や、治安の悪い国の方から話を聞くときなどでしょう。
「当たり前」に価値を見出すのは、当たり前でない人なのだと思います。このことは地域ばかりでなく、人もまた同じなのではないでしょうか。
自分の強みには気づきづらい
私の友人に、何かをコツコツ続けることが得意な人がいます。毎日決まった時間に起き、読書やSNS発信など分単位のルーティーンで進めます。彼にとっては自分で決めたことを続けることは息を吸って吐くように自然なことなのです。
しかし彼はそれが彼の強みであることは長年気づかなかったといいます。自分にとって当たり前すぎたからです。人生に悩んだ経験から自分を見つめ直す機会を作り、自分の強みを他の人とやりとりする中で、「コツコツ続けること」が何より自分が得意と言えることだと気づいたそうです。
その方は現在、見出した強みを活かして「習慣化コーチ」として活動を始めています。続けることが苦手な人に、どうすれば習慣化できるようになるのか助言を送り人気講師となりました。今は会社員ですが遠くない将来、独立を目指して「コツコツ力」に磨きをかけています。
彼の場合、自分だけでは「コツコツ続ける」ということが強みだとは気づけなかったといいます。他者から「あなたの習慣化力はすごい」と言われて「そうなのか」と目からウロコが落ちる思いがしたそうです。
違いに気づくことが転機に
杵築の場合も、彼の場合も、自分にとっての「当たり前」が他者から見て当たり前でないことに気づいたことが、転機になりました。違いに気づいたことで、自分の魅力や価値を磨く方向へかじを切ったのです。
人も、組織も、地域も、それぞれが「自分の強みを生かしたい」と願っていると思います。しかし、自分の強みとはいったい何のなのか分からない場合も多いと思います。どうすれば見つかるのか。それは「自分の当たり前に気づくこと」なのではないでしょうか。
本当の強みは、すでに自分の中にある
人であれば、格好良さげな資格など外からとってつけてきた「ニセの強み」は長続きしないことでしょう。本当の強みとは、すでに自分の中にあるものなのです。それに気づけるかどうかは、他の人と関わる中で、次第に認識が深まっていくものなのではないでしょうか。
自分にとっては当たり前だけれど、他の人にとって当たり前ではないこと、そこに価値の源泉があることに気付かされました。城下町・杵築、おすすめの旅先です。