コーチの対話術② 「反映」〜相手を映し出す鏡になる

姿見は人の身体を映し出します。コーチの対話術にも「反映」という相手の鏡になる手法があります。

私たちは、自分が本当は何を考えているのか、自分自身でもよくわからない時があるのではないでしょうか。大人になればなるほど、本心を押し殺して生きていきがちです。特に世間体や体裁を重んじる日本では「沈黙は金」という言葉もあるように、本心をあらわにしないことが美徳ともされます。しかし、そうした状況が続くと自分を見失ってしまうでしょう。鏡を見なければ自分の顔すらわからないように、自分自身を映す鏡が生きていく上では欠かせません。コーチの「反映」は相手を映し出す鏡になることです。

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反映=相手の姿をシンプルに伝える

反映とは、コーチが見えたものや聞こえたものを、相手に率直に伝えるやりとりです。「良い」「悪い」といった評価を交えることなく、映ったのものをシンプルに伝えることです。難しいものではありません。ただ単に、相手の姿を、自分に映ったままに伝えれば良いのです。

なぜ「そのまま伝える」ことが大事なのでしょうか。それは自分の話している姿は、自分には見えないからです。自分の話した言葉は、自分の耳でも聞こえるでしょうが、自分がどういう表情をしていたり、目の動きをしていたり、どういう姿勢でいたりするかは、自分には見えません。「目は口ほどにものをいう」ともいいますが、言葉で語ることと本心は食い違っていることもあるでしょう。本人自身もその食い違いを自覚していない場合もあると思います。コーチに映った姿を伝えることで、相手に大きな気づきを与えることができるでしょう。

反映の対話例をいくつかご紹介します。対話自体に正解不正解はありませんので、あなたならどう答えるか想像してみてください。

反映の例①

Aさんは数ヶ月前に知り合ったある人のことを話しています。Aさんはその人との関係をこれからどうしようか、考えています。次のように話しました。

(眉間にしわを寄せながら)この前知り合ったその人は、ときどきメールや電話をくれるんですよね・・・・・相談にのってくれるから優しい人だと思うし、頼りになりそうな気がするし・・・・・・これからも連絡を取り続けていきたいなと思っています

あなたならどう答えますか。コーチの視点をわかりやすくするために、記者とのやりとりと比較して見てみましょう。

その人とは、どのくらいの頻度で連絡をとっているのですか。どんな相談をするのですか。頼りになりそうだと感じるのはなぜですか

その人のことを話すとき、難しそうな表情をするのですね。話ぶりも普段よりスローペースです

記者は相手が話す内容自体に着目して掘り下げようとしているのに対し、コーチは言葉だけではなく表情も含めたその人の自身の姿全体に関心を向けています。Aさんは「優しくて頼りになりそうだから連絡を続けていきたい」と言っていながらも、表情は険しく、口ぶりは重い印象です。コーチはその姿をそのまま伝えています。

ただコーチは「本当は連絡を取りたくないんじゃないですか」などと意見を言っているわけではありません。Aさんは本当に連絡を取り続けたいと思っているかもしれませんし、本心は違うことを考えているのかもしれません。本当のことはAさんにしかわかりません。コーチは反映による問いかけによって、Aさんが本当はどうしたいか改めて考えるきっかけを作っているだけなのです。

反映の例②

次の例はどうでしょうか。Bさんは仕事でなにかうまくいったことがあるようです。

(顔をあからめ嬉しそうに)こんなにうまくいくとは思わなかったです!前回はうまくいかなくて落ち込んだけど、準備をすれば自分もできるんだなって。こんな気持ちになるのは久しぶりです!

記者とコーチ、それぞれどんなやりとりが考えられるでしょうか。

今回は前回の失敗を踏まえてどんな準備をしたのですか。久しぶり、というのはいつ以来なのでしょうか

ほんとうに嬉しそうですね。なんだか自信を取り戻した表情に見えますよ

記者がうまくいった秘訣を聞こうとしているのに対し、コーチは喜びに満ちた表情をそのまま伝えています。このコーチに映った「自信を取り戻した表情」についても伝えています。

Bさんは表情を反映されることで、自分自身の喜びを再認識するでしょう。嬉しいだけでなく「自信を取り戻したよう」というのは、Bさんだけでは気づきにくいことかもしれません。コーチに言われることで「そうなんだ」という新たな喜びの気づきが生まれるのではないかと思います。

反映の例③

次の例はどうでしょうか。Cさんは健康状態を良くしたいという願いがあり、ウォーキングを日課にしようとしています。ただ、最近はリズムが崩れているようです。次のように話しました。

夜の付き合いが増えていて、最近はウォーキングどころじゃないですよ。でも仕方ないですよ。こんなに忙しいんだから

あなたならどう答えますか。記者とコーチのやりとりの違いを見てみましょう。

付き合いは週何度くらいあるんですか。いまは忙しい時期なのですか

健康を保つためにウォーキングをすることは、あなたにとって優先順位が高いことでしたよね。忙しくても10分はできると話されていました。どういう変化が起きているのですか

ここでコーチは、Cさんが望んでいる健康的な生活に向けた取り組みがなおざりになってしまっていることに目線を向けています。Cさんは以前、忙しくても10分くらいならできると話していました。今回のCさんの話は、以前と変わってきてしまっているようです。

コーチは今回、自分の鏡に映った姿が、以前と異なりますがどうしたのですか、と尋ねているのです。Cさんがウォーキングができていないことを責めているわけではありません。コーチがやっていることは、あくまで鏡になり「本来の姿から歪んでいるようですよ」と語りかけているのです。

反映は時に、相手にとって耳の痛いことを伝えることになるでしょう。しかし、コーチは相手が望む方向にともに歩んでいく存在です。道を外れそうになれば、そっちで良いのかと問いかけることも大切です。

自分の本心は、自分ではわからないところがあります。私自身もつい先日、ある2つの選択に悩んでいてコーチにそのことを話しました。片方の選択は、世間一般的なことで無難なものでした。評価されることでもあるのかなと思ってもいました。それを話しているうちにコーチに「本当はどうしたいんですか」と尋ねられました。内面に向き合っているうちに、その片方の選択は、世間一般からは評価されこそすれ、今の私が大切にしている「やりたいことを思い切ってやる」という方針にはそぐわないことに気づきました。その時にコーチから「すけさんは、自分は本当は望んでいないことを話すとき『一方(いっぽう)で』という言葉を使いますね」ということを伝えられました。細かいところは省きますが、自分が「一方で」という言葉が話に出てきたときは、頭と心が一致していないのだと思います。コーチの反映があったからこそ、このことに気づきました。

反映は相手が無自覚なところを自覚的させることができます。何気ない反映の一言が、伝えられた当人にとっては大きな自己発見につながることもあるのだと思います。日常会話にも取り入れてみてはいかがでしょうか。

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