コーチの対話術①「認知」〜行動の裏にある思いを想像する

コーチング

取材とコーチングの問いかけは、何が違うのでしょうか。12年記者を続けてきた私が驚いたコーチの対話術をお伝えしていきたいと思います。

記者をしながら私は長らく悩みを抱えてきました。それは自分がおしゃべり下手だという自覚です。いわゆる「雑談」や「世間話」のたぐいはもっとも苦手という意識を持ってきました。取材をしても「なんだかうまくいかなかったな」とすっきりしない思いで引き上げることが多くありました。

そんな私ですが、記者をなんとか12年やれたのはどうしてだろうと思うのです。まったく不向きであればここまで続かなかっただろうからです。考えてみるとたぶんそれは、人の話を聴くことに興味があったからではないかと思い当たりました。自分から話題を提供したり、解決策を提示したりすることはなかなかできなくても、目の前の人の話をしっかり聴きたいという意識は常にもっていました。その人が本当は何を考えているのか、知りたいという思いは強くあります。そのため、会話の途中で鳴る携帯は取らないと決めています。

私が一番嫌いな取材があります。それは「これを言わせろ」と指示を受けてする取材です。多くは先輩記者が書く原稿の趣旨に沿って、コメントを取るというものです。記者は日々時間のない中で一定の流れをもった原稿を書かなければならないため仕方ないこともありますが、私はこれが本当に嫌いです。こちらが求める答えを言わせるのは取材ではなく、誘導尋問です。取材先に申し訳ないと思いながら、電話を鳴らしたことは数知れません。

記者をしながら、人と話をすることの難しさを感じ続けてきました。私だけでなく、人との対話に悩まれている方は少なくないと思います。

私はコーチングに出会い、コーチの対話術が日常の会話に大きく役に立つと感じるようになりました。特に、人の話を「聴く」ということがコミュニケーションを大きく変えることを実感しています。コーチングにはよりよく聴くために役立ついくつかの手法があります。学びの途中ですが、これはいいと感じたものを取り上げていきたいと思います。

認知:相手の内面に感じる思いを伝える

1回目は認知です。認知は、相手の内面に感じる思いを伝えることです。行動に焦点を当てるのではなく、相手の内なる特性に目を向けることです。

私たちはつい行動自体を目を向けがちです。例えば誰かと話をして、何かの説明を受けた時に「よく整理された話ですね」とか「素晴らしい意見です」などと何らかの評価を加えて返答しがちです。しかし、認知はそうではなく「本当によく学ばれているのが伝わってきます」とか「勇気をもってよく言ってくれましたね」などと、聴く側に映ったその人自身の姿を伝えるということです。

例えば次のような問いかけです。4例あげたいと思います。わかりやすくするように「記者の取材」と「コーチング」を比較してみたいと思います。

認知の例①:会話の相手が次のように話しかけました。あなたならどう答えますか。

どうしても会いたい人がいて、その人に連絡を取ろうと思い切ってメールしてみたんです。まだ返信がなくて、ちょっと不安です

どうしても会いたい人に思い切ってメールしたとのことです。記者とコーチ、それぞれどのような返答が考えられるでしょうか。

会いたい人というのは誰ですか。いつメールしたんですか。どれくらい期間、まだ返信がないのですか。何か心当たりはありますか

勇気あるチャレンジでしたね。会いたいという、あなたのまっすぐな思いが伝わってきます

ここでは、どちらがよくてどちらが悪いと言っているわけではありません。立場や状況に応じてやりとりは変わるでしょう。記者の場合は、基本的にはいつ、どこで、だれと、どうして、何を、どのようにという5W1Hが基本になると思います。

一方、ここでコーチが認知しているのは、思い切ってメールしたという「勇気あるチャレンジ」と「まっすぐな思い」です。コーチに映ったクライアントの姿をそのまま伝えています。クライアント側は、認知されることでコーチが自分の話をしっかり受け止めてくれていて、見守ってくれているような心強い思いになるのではないでしょうか。

次の例ではどうでしょうか。

認知の例②

10年勤めた会社をやめる決断ができました。悩みましたが、自分なりに考え抜いてこの結論を出しました

会社をやめるのは人生にとっても大きな節目です。これもコーチと記者、それぞれどのような返答が考えられるでしょうか。

やめた理由はなんですか。どのような仕事をしていたのですか。どれくらい前から悩んでいたんですか

大きな決断でしたね。あなたは自分の人生を自分で切りひらいていける人なんですね


記者がやめた理由を尋ねているのに対し、コーチは自分で考え抜いてやめる決断をした行為から伝わってくるその人の人となりを伝えています。言われた方は、励まされる思いがするのではないでしょうか。

次の例ではどうでしょうか。

認知の例③

きょうは早起きして、30分体を動かしました。清々しい朝の時間でした

これにはどう答えますか

なんの運動をしているのですか。それはいつから続けているんですか

絶好のスタートが切れましたね。1日の始めを大事にしているあなたの心がけを感じます

記者が運動自体に焦点を当てているのに対し、コーチは朝早くに運動するということから感じた相手の心がけについて伝えています。言われた方は「1日の始めを大事にしている」という思いははっきり持っていないかもしれませんが、コーチが感じる姿を伝えてもらうことで「そうかもしれないな」と気づきがあるかもしれません。

次の場合はどうでしょうか

認知の例④

今日の交渉はうまくいきませんでした。うまいかなかった原因を考えて、次こそはなんとか成功させたいと思います

これにはどう答えますか

何がうまくいかなかったんですか。それはどうしてですか。次はどうしたらいいと思いますか

めげずに立ち上がろうとしているのですね。失敗からも学んでいこうとするあなたの力強い意思を感じます

記者がうまくいかなかったという行為自体に焦点を当てているのに対し、コーチは再び立ち上がろうとする相手のめげない姿に目を向けています。言われた方は、背中を押された気分になるのではないでしょうか。

この認知は、コーチングにとって最重要のもののひとつです。相手をしっかりと見守るという思いを持つことで、自然に出てくる言葉なのではないかと感じます。これは、コーチングだけでなく親しい人との会話や子育てなどに有用な視点なのではと思います。

表に出ている行動ばかりでなく、その裏にある相手の思いを想像してみましょう。それを折に触れて認知することを心がけてみましょう。きっと相手とのやりとりが変わり、関係もより深まると思います。

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