【コーチングに興味のある方へ】 コーチングに特殊スキルは要らない

コーチング

13、14日にあるオンラインのコーチングセミナーに参加した。そこでコーチングを初めて実践した。参加者とコーチ役とクライアント役に分かれて、2日間で10人ほど、それぞれ20分ずつくらいでやった。

私は記者になり11年間、少なくとも2000人くらいの方と、一対一で取材という「対話」をしてきた。取材とコーチングが何が違うのか、私は知りたいと思った。感じたことを以下、書いてみたい。

コーチングは人生をよりよくするための対話

このセミナーに参加した理由の一つは、コーチングとは一体なんなのか、自分の言葉で説明できるようになりたいと思ったことだ。コーチングに興味を持って1ヶ月半ほど。本を読んだり動画を見たり、または実際にコーチングを5人ほどの人から受けたりして、なんとなくイメージはわかってきたが、それでも一体なんなのかよくわからなかった。何人かのコーチの方に実際に聞いても「人によっていろんな捉え方がある」という。自分の言葉で整理したいと思った。

2日間で実際にやってみて思ったところを率直にいえば、コーチングとは「人生をよりよくするための対話」だと思った。

このよりよく、というのは目標達成や課題解決への糸口を見つけること、または人生の方向性の発見といった意味だ。現在よりも未来がより生きやすくなるように、本人の中にある力を呼び覚ましていく対話の時間のように思った。

コーチングの本を読むと、3つの基本と言ったことが書かれている。それは「傾聴」「質問」「承認」だという。確かにこれらは対話をしていくにあたって大事なことだと感じた。言葉が少し硬いので、私なりに平たく言い換えると、「聴く」「聞く」「受け入れる」と捉えたいと思う。

この3つの基本は大事だと思った一方で、細かいスキルはどれだけ大事なのか、今の時点ではよくわからなかった。コーチングにはいろいろなタイプがあるそうで「解決志向型」「目標志向型」「認知行動」「ナラティブ」などカッコイイ名前の手法について概要を聞いた。ただこうした一連のスキルは「人生をよりよくする対話」にとっては枝葉のようなもので、決して本筋のものではないと思う。

大事なことは先入観を持たない率直な好奇心

スキルよりも私が何より大事だと思ったのは、「先入観を持たない率直な好奇心」だと感じた。コーチングの対話は、原則一対一だ。人は人それぞれで考え方も違えば、置かれた状況も異なる。誰一人同じ人などいない。そしてその人をすべて理解するなど到底無理な話だ。「人は人を理解しきれない」という前提で、それでも限られた時間でできる限り相手のことを知ろうと心を開く姿勢こそ、大事なのではないかと思った。

実際に2日間で話した10人ほどの方も、それぞれ全く異なるバックグラウンドの方ばかりだった。「大人向けの発声トレーニングを、子供向けに提供するサービスを考え中」、「東南アジアから日本に就業する人の言葉の支援」「30年近く勤めた会社をやめて、経営支援業として独立」「人材育成のための新たな部署立ち上げのリーダー」など、価値観も異なれば、置かれている状況も、様々だった。

その多様な状況を想像力をめいいっぱい広げて、相手の置かれた状況をイメージしながら、話をしていくこと。そして相手の気持ちを完全にわからないとしても、思いを汲み取って、共感と理解をしていくこと。その上で、相手に率直な問いかけをすること。こうしたことが、対話の時間を豊かにするのだろうと思った。

言葉にならない思いを汲み取る人間力

私はこの2日間の最後の対話セッションで、とても心打たれるやり取りをさせていただいた。相手役は私より少し年配の男性の方だった。テーマは「自分が将来目指しているものが、何の影響を受けているものなのか」という話だった。

やり取りできる時間は10分。私は自分のビジョン「世間体の人を、自然体で生きる人に変える」ということについて話をした。これがポジティブな自分の思いもあれば、また過去のネガティブな経験にも影響されているものだという話をした。8分ほどで思いを語った。

残り2分。相手の方は「説明を聞いて私なりに思ったことをフィードバックします」と切り出した。そして一言目、「あなたのそのビジョンは、相当な時間をかけて作ったものなんでしょうね」と語った。そして「その自然体という言葉があなたの中で出てきた時、あなたの歓びは言葉に尽くせないもんだったんじゃないですか」と言葉を続けた。

私は絶句した。私はこのビジョンを初対面の人に話すのは初めてだった。正直、このビジョンが人にどれだけ伝わるものなのか、不安もあった。「世間体」「自然体」という言葉に行き着くまで、確かに丸3ヶ月かかった。自分なりに熟慮に熟慮を重ねて、最後に出てきた自然な言葉だった。この思いを、わずか数分の話で、丸ごと汲み取ってくれたような思いがし、私は底知れない安堵感のようなものを感じた。

その人に何かコーチングの特殊なスキルがあったのだろうか。同じ受講生という立場だ。もしかしたら多少の経験があるのかもしれないが、リッパな資格を持っているわけではないはずだ。それでも私は、彼のコーチングを受けて、とてもありがたい気持ちに満たされた。

実はこの2日間のセミナーの講師に、激しい不満の思いを持っていた。15人ほどの受講生とコミュニケーションをとる気は見られず、一人で画面の向こうでレジュメの順に沿ってぼそぼそと喋っているだけのように私には思えた。その上、脈絡もなく「長野県民でいま横浜に住んでいる」とか、「応援団で活動したことがある」とか「私は好きな人に告白したことがある」とか意味不明な話を時々思いついたようにつぶやいていた。理解できないという以上に、不快だった。

どうしてこの人がコーチングの講師をやっているのか、私には極めて疑問だった。zoomのブレイクアウトルームでの他の受講生と、実際にコーチングのやり取りをする時間だけがおもしろかった。他の受講生もこの講師に対して少なからず私と同じように感じていたようで「聞く気になれない」という声も何度か聞いた。

2日目も終わりに差し掛かり、抗議文をこのセミナーの主催者に送ろうと思い、文面を作っていた。高額の受講料に見合う内容とは決して思えないということや、講師がセミナーを運営する力量があると思えないといったことを、一受講生の主張としてきちんと言い渡したいと思った。

ただ最後の最後、私はそのコーチ役の方と対話ができた。2日間で計16時間のうち、最後の2分で、心境は一変し、このセミナーを受講して良かったと思えた。逆転満塁サヨナラホームランにも勝るほどの、大逆転劇だった。

コーチによって、対話の成果は大きく変わる。コーチングにとって大事なことは、カッコイイ特殊スキルなどではなく、人が語る言葉の奥に秘められた、言葉にならない思いを汲み取ること。それによって相手をできる限り深く理解しようとする誠実な人間力なのではないか。このことを骨身に染みて学んだコーチングデビューとなった。

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